ご夫婦間での介護でも時にはあるイライラやつらさ。でも、笑顔で迎えてくれる利用者様
70代のHさんご夫婦、パートナーである妻の介護を、夫が担っています。日々の介護は、テレビドラマのようにはいかないものです。日常生活の中で、時には腹が立ったり、投げ出したくなったりするのはごく普通です。
私自身、夫の母と同居して、自宅で最期までお看取りを経験致しましたが、先の見えない介護に何度押しつぶされそうになったことか・・もう投げ出してしまいたいと思ったことか・・数え切れない程ありました。
なのに
主介護者である彼(夫)は、私たち医療者がご自宅に訪問すると、毎回笑顔で迎えてくださいます。体調により不機嫌なHさん、時には「帰れ!」「たわけ!」と怒りだしてしまいます。そんな時、彼(夫)はいつもHさんをなだめ、ケアのための足浴のお湯や塗り薬、タオルなどを素早く用意してくださいます。そして、Hさんは、不機嫌でも足浴は自ら足を入れてくれるのです。
私たちの訪問看護で何ができているのだろうか・・かえって、日々介護されている彼(夫)の気を使わせて疲れさせているのではないか・・等考えていました。
Hさんのピアノの音に思いをはせる。心が通い合った時の感動こそ看護冥利に尽きる
ある日の訪問の事、Hさんは車いすでピアノに向かっていました。そして不自由な左手は使わず、右手の人差し指のみでピアノを弾いてくださったのです。透き通るような音色、一緒にいたTナースも私もしばし感動で動けませんでした。くすんだ心が洗われるような音色でした。
若いころに幼稚園の先生をされておられたのです。子供たちにピアノを弾き、音楽を教えていた・・たとえ身体が不自由になっても、右手人差し指1本でもメロディは忘れていない・・指は、心は、覚えているのです。
誰でも輝いていた時がある❣ピアノの音色に感動し、活躍されていた頃のHさんに思いをはせる事ができました。これぞ、訪問看護のダイナミズム!看護冥利に尽きると言えます。そして、怒っていたHさんが、笑ってくれた時、言葉が通じた時、心が通い合えたと思え、私たちはますますうれしくなり、感動の中でケアを終え診療所に帰ります。
介護でのイライラやつらい時、時には手を抜いたり、私たちに弱音を吐いてほしい。
どうか介護されている彼(夫)にも、一生懸命にまじめにするのではなく、時には手を抜いたり、弱音を吐いたりしてほしい・・「理想の介護」はありません。100人いれば、100通りの生活があり、介護があります。ほどほど、まあまあで暮らして欲しいと思います。私たちの訪問看護が、Hさんご夫婦に少しでも役に立つ事ができればうれしい限りです。
この記事の監修者

- (社会福祉法人 淳涌界 理事)
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大分県出身、野山を駆け回って天然に育つ。
障がい児施設、大学病院勤務を経て、「創ろう、みんなの診療所」の呼びかけに賛同、3年間の準備期間ののち、1992年、大阪生野区に「菜の花診療所」を開設。
準備の過程で、畑理事長や創業者の藤村淳子さんと出会い、その後も励ましやパワーをいただいてきた。2022年に卒職、2025年1月からおふくろの家診療所で看護を中心にかかわっている。
大事にしたいことは「かけ替えのない存在としての個」